健診センター開業手順 計画編
健診センターを開設するにあたっては、しっかりとした事業計画を策定することが重要です。 ここでは、健診センターの事業計画策定について、基本的な手順を解説します。
Ⅰ.経営理念等の再確認、ビジョンの策定
1.母体となる組織の経営理念の再確認
病院やクリニック、健診センター(健診専門クリニック)などが健診センターを設立する母体となる場合は、その組織の経営理念やビジョン、ミッションを再確認することから始めましょう。
特に病院やクリニックの場合はそのビジョンや経営理念にあわせた健診センターのあり方を検討することが、病院(クリニック)と健診センターの相乗効果を高めるために重要になります。
2.健診センターのビジョン策定、スタッフへの周知徹底
母体となる組織の経営理念やビジョン、ミッションを見直した後は、設立する健診センターのビジョンを策定します。ビジョンとは、なりたい姿、あるべき姿、どのような姿になりたいかということです。
健診センターの新規開設にあたっては経営者(院長やトップマネジメント)の健診センターに対する「想い」が重要です。経営者の想いが組織に関わる人たち(受診者やスタッフ、協力業者など)に共感されるようなビジョンを設定しましょう。
そしてスタッフが共感するビジョン・ミッションを周知徹底することが、開業までの業務や開業後の運営を成功させる重要な要素となります。
Ⅱ.市場環境の分析
健診センター開設にあたり、自施設を取り巻く環境を分析することが重要です。 目的としては、自施設にとっての市場機会や差別化に活かせる強みを把握することで、目指す健診センターの方向性を明確にします。
新規開業において環境分析は非常に重要ですが、開業後の健診センターにおいても定期的な市場環境の分析は大切です。
1.フレームワークをつかった市場分析
市場環境分析のフレームワークとしては、PEST分析や3C分析がオーソドックスですので、これらをもとに分析するとよいでしょう。
⑴自施設を取り巻く環境の分析(PEST分析)
⑵受診者動向の分析(3C分析:Customer)
⑶競合の分析(3C分析:Competitor)
⑷自施設の分析(3C分析:Company)
が主なものです。
⑴自施設を取り巻く環境を分析(PEST分析)
マクロ環境分析のフレームワークとしてPEST分析があります。
PEST分析とは、P(Politics:政治・法律)、E(Economy:経済)、S(Society:社会)、T(Technology:技術)のそれぞれの頭文字をとったものです。
①P:(政治・法律)(politics)
ここでは、政治や法律面での外部環境を検討します。
健診センターでは特に厚生労働省の政策に影響を受けます。
増大する医療費を抑制する観点から予防医療への取り組みが重視され、特定健康審査(特定健診)、フレイル健診などは、医療費抑制対策の一環として実施されています。このように国の医療政策に基づいた健診が実施されています。
これらの方向性のなか、健保財政の悪化も伴い、ドックなど高単価な健診の減少、特定健診等の比較的定単価な健診が増加しています。ここから、将来的に健診対象者は増加するものの、一人当たりの単価が低下する傾向にある状況で、自施設としての方策を検討していきます。
②E:(経済)(Economy)
経済面での外部環境を分析します。
例えば、健診センターに関して景気後退の影響は、通常の企業よりもやや遅れてやってくる場合があります。とくに人間ドックでは、景気の低迷→企業利益の減少→健保の健診補助額の減少という流れで、実際の景気動向にやや遅れた感じで影響が出てくる場合がありますので、中期の収支計画に影響します。
③S:社会(Society)
社会面での外部環境を分析します、主に人口構成や文化・業界動向などを分析します。
健診センターで重視するのは、人口動態です。少子高齢化、労働人口の減少などは今後の方針を考える上で検討が必要な要素になります。
人間ドックや企業健診は対象年齢が仕事をする世代、特に30代後半~60歳までがメインターゲットとなりますが、労働人口が減ることでこの世代をターゲットとした健診の対象者は減少傾向になり、逆に65歳以上の高齢者が増えるため、これらの年代の方が受診する健診が増加することになります。
④T:技術(Technology)
技術面での環境分析を行います。
健診に関わるものとしては、健診システムのICT技術向上による効率化(健診結果のデジタル化、その他ヘルステックアプリ・ガジェットとの連携)、低線量CT 、MRI PETなどの検査機器の進化、がん検査の進化などでしょうか。
これらの技術を自施設にどのように取り入れていくかを十分検討し、施設の方針を決めていきます。
⑵受診者動向の分析(3C分析:Customer)
一般的には、顧客(健診における受診者)のニーズや要望、市場の大きさ、市場の成長性などについて分析します。ここでは、健診センターにおける顧客(受診者)分析の中で重要と思われるものを挙げます。
①地理的特性
施設を開業する立地の地理的特性を分析します。健診センターでは特に立地特性に合わせた受診者ターゲットの選定が重要になります。
地理的特性の主な切り口:
大都市圏、地方都市、郊外、過疎地
駅からの距離、商業地、工業地、住宅地、農業地など
②潜在受診者人口・人口動態
健診センターの立地(候補地)周辺の人口動態を分析します。
特に住民健診や企業健診など、受診者がアクセスの良さを重視する健診を実施する場合、町、丁目別の人口などを調べることで、どのくらいの潜在需要があるのかを予測します。
男女別人口は特に女性向けのがん検診(乳がん、子宮がん検診)を実施する場合には重要な資料となります。
また、年齢別の人口は、保険者(健康保険組合など)からの補助が出る年齢制限(40歳以上など)があるので、調べる必要があります。
⑶競合分析
健診センターの立地(または候補地)周辺にある、健診センターを併設している病院、健診をメインにしている健診センターや市民健診などなんらかの健診を実施しているクリニックがどのくらいあるのかを調べます。
競合施設で主に調査することは、
①競合施設の差別化のポイント(強みとしているところ)、価格設定
②売上高/シェア/利益/顧客数など
③経営資源としての営業担当者数、設置している医療機器、医師他医療系スタッフの数
などです
⑷自施設分析
競合施設に対する自施設の差別化のポイントを分析することが重要なポイントです。
医師や医療系スタッフ、事務系スタッフの量と質、トップのリーダーシップ、資金力、導入(予定)医療機器などを分析し、競合施設にはない強みは何かを見極めていきましょう。
とくに健診センターは立地が非常に重要な差別化要因になりますので、立地特性をしっかり分析してください。
また、自施設の分析方法としてよく使われるSWOT分析(自施設の強み・弱み・機会・脅威を分析)を、スタッフの皆さんで検討するのも良い手法です。ただし、何が脅威で何が機会になるかは解釈次第ですので、注意が必要です。
Ⅲ.健診センターのコンセプトを策定
健診センターのコンセプトはビジョンやミッションと連動し、事業戦略の方向性を決めるものです。
コンセプトというと難しく考えがちですが、ここでは、「誰に、何を、どのように健診サービスを提供する健診センターにするのか」を明確にするという意味で検討します。
コンセプトが理解されないまま開業の実務を進めていくと方向性が定まらず、一貫性のない施設になる恐れがありますので、コンセプトを開業に関わるスタッフや協力業者に伝えていけるものとすることが重要です。
1.「だれに」を検討
ここでは、どのような人をターゲットとするのかを決めます。
ターゲットとする想定受診者を設定するために、基本的に下記の事項を分析し、絞り込み、組み合わせを検討することで、ターゲットを明確にしていきます。
(1)立地特性による検討
市場環境分析での立地特性の分析をもとに、自施設の地域特性に合ったターゲットを検討します。
例えば…
・都市型(県庁所在地や比較的公共交通機関網が発達しているところ)の地域に立地している場合。
→ビジネスパーソンが多く、ドック、定期検診、協会けんぽなどのマーケットが比較的多い。
・郊外型(住宅街、農業地域、工業地域などであまり公共交通網のないところ)の地域に立地している場合。
→巡回健診(工場の多いところ)、主婦層、定年後国保加入者向けの健診などのマーケットが比較的多い。
などが考えられますので、更に掘り下げ、ターゲットを検討します。
(2)人口動態的特性による検討
健診に特に関わるものとしては、特に年齢、性別、職業があげられます。
メインターゲットとなる受診者の特徴を検討します。
①年齢
企業健診なら20代から60代がターゲットになります。また、健保や市町村による健診補助対象年齢なども一定の切り口となります。
②性別
例えば、女性であれば、女性特有の検診(乳がん、子宮がん検診など)がありますますので、女性をメインターゲットにしている健診センターもあります。
③職業
会社員(大企業・中小企業)、個人事業主、中小企業オーナー、主婦、定年退職者などが切り口になります。健診の市場としては、人間ドックがメインならば主に大企業の健康保険組合や公務員が加入する共済組合の人間ドック補助を出している組合に加入する人がターゲットになります。
また協会けんぽ(全国健康保険協会)は中小企業の多くが加入する最大の健保なので、企業健診をメインにする場合は最大のマーケットボリュームになります。
また、高級な人間ドックをする場合は、富裕層かつどのような特性を持つ人をターゲットにするかを検討する必要があります。
(3)医師の専門性や設置している医療機器
病院やクリニックであれば、医師の専門性や所有している医療機器を健診で相乗効果が見込める手法を検討します。
たとえば、婦人科系のクリニックであれば、婦人科医師や婦人科系の医療機器・検査機器を効果的に応用して、女性専門の健診施設にするなどが考えられます。
2.「なにを」を検討
健診センターの提供するサービスは健康診断になりますので、どのような健康診断を実施し、メインとする健診はなにかを検討します。
◆フルラインアップ型
人間ドックから住民健診まですべて実施。また、巡回健診も実施する場合もあり。大病院付属の健診センターや健診専門の法人が実施することが多い。
◆施設内企業健診型
人間ドック+協会けんぽ+一般検診(企業健診や住民健診)
健診専門の健診センターの多くは、このタイプが多い。
◆施設内一般健診中心型
クリニックなどで、診療の合間などに定期検診、特定検診などを中心に実施するタイプ。
◆特化型
・高級ドック特化型:高級人間ドック× 富裕層
・人間ドック特化型:健保組合の補助がある人間ドックに特化した施設。
・女性人間ドック特化型:人間ドック×女性 女性専用の健診センター
3.「どのように」を検討
自施設がもつ経営資源を強みとして、受診者に提供する価値および価値をどのように提供するか検討します。
健診センターでは健康管理、健康維持、早期発見、早期治療など疾病予防を提供することが価値と言えますが、これはどの施設でも提供する基本的な価値です。
そこで、自施設が持ち、かつ競合施設にはない経営資源をもとに提供する価値を検討します。
自施設の強みを生かし自施設のサービスのどこが良いか、競合施設とどのように違うのかを明確にし、「競合施設よりも良い健診サービスを提供している」とターゲットとなる受診者に認知してもらうことを検討します。
<価値提供に関する検討のポイント>
(1)自施設の強みの明確化
(2)競合施設との差別化のポイント
(3)ターゲット受診者のニーズ
(1)自施設の強みの明確化
自施設の競合施設にはない経営資源を活かした「強み」(競合との差別化要因+受診者の利用要因)を検討します。
例)
(2)競合施設との差別化のポイント
対象とする市場での競合施設を想定し、自施設の持つ経営資源を活かした差別化要因を検討します。
例)
◆病院併設健診センターの場合 ⇒ 病院の知名度や治療との連携
◆消化器内科の場合 ⇒ 胃カメラの技術が高い
◆婦人科クリニックの場合 ⇒ 女性特有の病気の早期発見に強い
(注)「自施設の強み」・「競合との差別化」は相対的なものです。病院併設型が多い地域ではその中でのさらなる差別化も必要になりますし、他の例でも、独自の差別化要因を見出すには、更に掘り下げる必要があります。
(3)ターゲット受診者のニーズ
「1.だれに」で選定したターゲットとする受診者が健診センターを選ぶ理由を検討します。
受診者はニーズを満たすために健診サービスを利用するとも言えます。
健康状態の把握による予防効果が基本的なニーズですが、これに加えて、ターゲットとする受診者特有のニーズを検討します。
また、人間ドック(健保補助利用)や企業健診を実施する場合は、ターゲットは、受診する本人だけでなく、人間ドックの補助を出す契約主体(健康保険組合等)や企業の健康診断担当者もターゲットとなります。そのため、それぞれの施設選定要因(ニーズ)を検討する必要があります。
例)人間ドックをメインサービスにする場合
健康保険組合等保険者(契約主体)の施設選定理由
価格、精度、立地、健保連の指定施設、検査項目の充足、結果や請求書の事務処理が早い など
受診者(実際に受診する本人)の施設選定理由
価格(補助の差額を支払う必要があるので)
予約の取りやすさ
立地のよさ
健診の早さ
施設の綺麗さ
スタッフの対応のよさ、
医師の対応のよさ(結果説明のわかりやすさなど)
(女性受診者の場合)男性のいないところで検診がしたい、女医さんや女性スタッフのいるところが良いなど。
4.施設コンセプトをまとめましょう。
ここまでに検討した、「だれに」、「なにを」、「どのように」をまとめましょう。
例)女性専門人間ドック施設
だれに
30代~60代女性
なにを
女性に特化した人間ドック・オプション検査
どのように
女性専用フロア
女性医師・女性スタッフがすべて検査・接遇する
清潔なパウダールーム
ヘルシーなランチ付き
女性専門施設や女性専用フロアがある健診センターに人気があるのは、差別化がしにくい健診業界の中でも、うまく市場の細分化と想定受診者の設定、そのための経営資源の活用ができていることだと思います。
単価の高い人間ドックは競争が激しくなると思いますので、人間ドックをメインの健診にする場合は、健診コースや対象者を絞って、特徴を出した方がいいと思います。(ここでは、女性専用の施設を例に上げていますが、おすすめしているわけではありません。)
Ⅳ.マーケティング計画の策定
施設のコンセプトを決めた後は、その施設コンセプトに基づいて、具体的に健診業務をどのようにしていくかを決めるマーケティング計画を策定します。
ここでは、マーケティングでよく使われるフレームワークであるマーケティングの4P(4C)に沿って考えます。
4P(自施設からの視点)
1.製品(Product)
2.価格(Price)
3.流通(Place)
4.プロモーション(Promotion)
4C(顧客からの視点)
1.顧客価値(Customer value)
2.コスト(Cost)
3.利便性(Convenience)
4.コミュニケーション(communication)
1.製品(Product)・顧客価値(Customer value)
健診施設で製品に当たるものは、受診者の健康状態を検査し、その結果を通知するというサービスになります。
このサービス内容を検討しましょう
⑴どのような健診をするのか?
健診コースについては、健診コースの種類が自施設の想定する受診者にあったもの(支持されるもの)にしっかり整合性が取れているか再度確認しましょう。
人間ドックの場合はドック学会の標準項目に何か施設として追加するのかなどを決めます。
⑵オプションの設定
人間ドックの場合、婦人科系の子宮がん検診(子宮頸がん検査)、乳がん検査(マンモグラフィ・超音波)、頭部MRI検査、肺がん検査(CT検査)などの検査は保険者が補助を出していることが多いので、これらの検査ができる医療機器を保有している場合は実施を検討します。ただし、マンモグラフィやMRI、CTは高額な機器になりますので、現在保有していない場合は、慎重に財務面での採算予測を立てた上で導入するかを決めましょう。
(3)製品としての健診サービスについて
製品としての健診サービスについては、受診者の目に見えるものとしては、事前書類や健診結果、受付、検査時の接遇であり、それらを支える人的資源及びその能力、医療機器、健診システム、什器備品などを総合してサービスが提供できるということを考える必要があります。
これらについては「オペレーション計画」や「施設計画」で検討をします。
2.価格(Price)・コスト(Cost)
医療機関の場合、公定価格である診療報酬によって価格が決まっていますが、健康診断は自由診療ですので、基本的には実施する施設により価格が決定できます。ここが、通常の診療とは大きく違うところで、治療(診療)よりも戦術的に運用が検討できるところです。
しかしながら、人間ドックや一般健診の価格は、競合施設との比較により決定される度合いが高く、施設間での金額差はほとんどない状態です。
これは人間ドックや一般検診の項目が業界や法的に決まっているため、ほぼ同じ価格に収斂するためでしょう。特定健康審査や特定保健指導、あるいは市民検診などは集合契約の場合が多いので、価格は一定になります。
そのため、健診本体の価格による差別化の効果はあまり期待できないと思われますが、利用促進などの方策としては検討が必要になります。
◇価格に関する施策
・本体価格の割引
人間ドックや一般健診の本体価格の割引については、受診人数の多い団体への割引価格での提供をするという場合があります。
また、受診者の自己負担がいくらになるかも選択要因となるため、受診数が多く見込める健保などとは、本体価格を通常価格(定価)よりも下げて契約することも検討します。
・初回受診者の獲得や閑散期対策としての割引
オプション無料サービス、割引サービス期間(閑散期対策として)割引などをする健診センターもあります。
オプション無料サービスの提供事例としては、割引券を作り、健診担当者などから受診対象者に配布してもらい、初回受診などを促すのに使う場合があります。
※割引対応と健診システム
割引対応がしやすい健診システムを導入しておくことが意外と大事です。健診システムが割引に対応しやすくしていないと、事務手続きが煩雑になり、スループットを下げることになるかもしれませんので、そういうことが可能なシステムの導入を計画時から検討する必要があります。
3.流通(Place)・利便性(Convenience)
商品の販売などでは、流通はどのような手段で消費者に商品を提供するかを検討します。
健診センターは、どこで健診を提供するか、立地及びその立地特性を活かした健診サービスの提供手法を検討します
健診センターを設立する立地としては、立地場所の選定に制限がない場合は、当たり前ですが、通常のサービス業同様にターゲットとする受診者が商圏内に多く存在し、アクセスしやすい場所を選ぶことです。
たとえば、病院が健診センターを設立する場合では、病院内や病院敷地内に作るのか別の場所にサテライトとして設立するのかでそのメリットやデメリットを検討します。病院内に設立する場合、病院の知名度を活かすことができること、MRIやCTなど高額医療機器がある場合はこれらの機器を導入する費用が抑えられることができるかを、サテライトの場合は病院への新規患者の取り込みが可能となる立地などを検討します。
4.プロモーション(Promotion)・コミュニケーション(Communication)
プロモーション戦略(コミュニケーション戦略)は健診センターにおいて、施設経営のための受診者の獲得、維持に欠かせないものなので、とても重要となります。
⑴健診センターにおける段階的コミュニケーション手法の検討
コミュニケーションの手法としては、「誰が、いつ、どのように」伝えるのかをよく検討することが大事です。
ターゲットとなる(潜在)受診者の健診に対する検討・利用の段階によってコミュニケーション手法を使い分けていく必要があります。
⑵まずは「知ってもらう」こと
健診センターの開業に関しては、まず自施設を知ってもらうこと、自施設を選んでもらうためのコミュニケーション手法の検討が第一になります。
健診センターで伝えられることは、以下の受診の事前と事後で分けられます。
①新規受診需要者に事前に伝えられるもの
・健診センターの概要(診療日時など)
・健診コース・オプション検査
・施設の外観や内装(家具)
・使用している医療機器
・医師のプロフィール
など
②受診後でないと伝えられないもの(かつ他施設で受診しないと差がわからないものもあり)
・検査結果
・検査工程の早さ(丁寧さ)
・接遇の良さ
など
「①」は新規受診者獲得のために工夫して伝える必要なこととなり、「②」はリピーターを増やすために工夫して伝えることが必要となります。
開業前に準備または検討し、実施するかどうかを決めるコミュニケーション手段としては以下のものが挙げられます。
<知ってもらうためのコミュニケーション手法>
①ホームページ
②マス広告:テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の広告など
③ポスティング用チラシ
④パンフレット・オプション一覧表
⑤看板
⑥広報対策:プレスリリースなど
⑦内覧会
など
⑶リピート率が大切です。
開業当初は新規受診者を獲得することが重要な目標になりますが、健診事業では2回目以降も来てもらえるかがもっと重要になります。
健康診断は継続的に自施設で受診してもらうことが利益の基盤となっていくものです。いわゆる顧客生涯価値(LTV)の概念が健診では非常に重要になります。
◆リピート率を高める方策を検討する
健診は、受診者に信頼され、リピートされることが重要となります。
新規開業の場合1年目はすべて新規受診者ですので、この新規受診者が2回目以降も受診してくれるようにすることです。
リピート率を高めるためには、個人の受診者や健康診断の担当者と信頼関係の構築が必要となります。
・受診時の印象の良さ
特に施設の清潔感や接遇のよさなど受診者が直接感じ取れることができるような要素を高める必要があります。
また企業健診においては、受診者だけでなく、企業担当者が喜ぶことが重要ですので、迅速な検診結果の報告、労基関係資料作成のサポートなどが必要です。
・受診後のコミュニケーションの強化
受診後、次回健診時期の前に再診を促すハガキなどを出すことや受診者が関心を持つような健康情報を送信する仕組み作りも必要になります。(この再診案内を効率的に出すためには検診システムや事務処理方法の検討が必要です。) 最近ではICTが進んでいることから、これらの技術を使って、メールアドレスを登録してもらった受診者へ、再受診案内や情報提供ができる仕組みを作ることも重要です。
Ⅴ.オペレーション計画の策定
1業務プロセス・オペレーション管理の検討
健診センターにおけるサービスを支え、特徴づけるものが業務プロセスです。
業務プロセス及びそのオペレーション管理はリピーター獲得の手段として重要な要素となりますので、しっかり検討しましょう。
①健診の速さの重要性
美容院で言うと、お客さんはカットやセットそのものを求めているのではなく、カット後の容姿の美しさを求めているように、健診においても、受診者にとって検査や接遇そのものをサービスとして求めてはいないということに留意する必要があると思います。
特に企業健診の場合は、検査後に仕事に戻ると言うケースが多いので、できるだけ早く検査を終わりたいと言う要望の度合いが高いと思います。また健診センター側でも検査の早さは、1日あたりの受入人数に影響しますので、業務プロセスの効率化は非常に重要となります。
②業務プロセスの検討
健診センターの基本的な業務プロセスは以下のものが考えられます。
それぞれのプロセスにおける主な検討事項を考えてみましょう。
予約→ 事前準備 → 受付 → 検査→(結果説明)→ 会計 → 結果送付
◇予約(予約の取りやすさ)
予約の取りやすさは、受診枠に左右されるので、受診枠の設定も重要です。
予約関連での効率化については、インターネット予約や予約専用サイトの業者と提携などがあります。(ただし、健保によって補助が違ったり、健診可能時期が違ったりするので、それを反映するようなシステムにするとシステム構築費用の問題が出てきますので、要検討です)
◇受付・精算
受付・精算では、接遇の良さが求められますが、正確性、スピード面も受診者の受け入れ枠を増やすためには重要です。健診システムを軸にどのような効率的な受け入れの仕組みを作るのかが重要です。
◇検査
検査自体の時間と検査と検査の間の待ち時間をどう短縮するかを検討することが重要です。ただし、検査ミスや検査漏れなどのリスクの軽減も同時に検討が必要となります。
◇接遇
受付などの事務スタッフ、看護師などの医療スタッフ全てにおいて、通常の診療所、病院よりも接遇の良さがセールスポイントとなるのが健診です。特に、医師の診察、結果説明は受診者の健診センターに対するクオリティとして捉える場面です。ただし、高額な健診をメインにする施設以外は、あまり懇切丁寧すぎてもスループットが下がるため、良い加減が重要です。
◇検査結果の送付
人間ドックでは2週間程度、企業健診でも早くて1週間程度で手元に届けるようにしている健診施設が多いと思います。
企業健診では会社の健康診断の担当者及び本人への結果通知が必要になりますが、担当者への早めの提出が重要です。また、労働基準監督署への書類提出もあるのでこれらの集計を素早くできるシステムの導入が必須になります。
最近では、紙媒体での提出でなく、クラウドで本人はスマホやタブレット、パソコンなどで閲覧できるシステムもあるので導入を検討したいところです。
また、健診結果の管理には、経年の結果管理により競合施設への流出を防ぐような効果も期待できますので、この点についても十分検討が必要です。
◇検査後のフォロー(アフターサービス)
結果通知後の問い合わせへの対応や、特定保健指導の実施、次回の健診の案内などリピーターにするためにも様々なサービスを提供する必要があります。
自施設の経営資源でどのくらいのサービスができるのかを検討しましょう。
2人材の確保および人材教育の重要性
サービス業は労働集約型の産業なので人的資源が欠かせません。健診診断のサービスは提供も同じく人的資源が重要となりますが、医師、医療スタッフなどの資格の必要な職種を集める必要があります。医療スタッフはご存知の通り医師をはじめ採用が難しい職種なので、採用計画を十分検討してください。
新規開業の場合はオープン前からの研修などが必要ですので、中心となる人材は早めに採用したいところです。また、オープン当初に必要なスタッフ数を割り出し、オープンの1~3ヶ月間くらいには全てのスタッフを揃えておいた方が良いです。
またいちばん大変なのは、医師の手配です、特に胃カメラを実施する医師、婦人科系の診察をする医師、乳腺系を診察できる医師などはオプション検査でも必要となりますので、パートタイムで採用する場合でもどのくらいの頻度で実施するかなどを事前に計画する必要があります。
Ⅵ.施設および設備関係計画
1.施設・什器・備品の検討
健診センターで健診コースやオプション検査がサービスのコアとなるものであれば、それを提供する施設及び使用する什器・備品(建物やそのデザインを含みます)や医療機器はそのサービスを提供する裏づけとなるものです。
施設については外観や内装、使用する什器備品が施設のコンセプトと整合性があるものにする必要があります。
人間ドックをメインとするのであれば、ゆったりと受診できるような空間づくりやデザインが必要でしょうし、逆に受診人数を多く対応する企業健診や市民健診をメインとするならば、清潔感は必要ですが、デザインよりも合理性を比較的に重視した施設が必要になります。
施設の設計、デザイン、動線などについては作り直しがききませんので、施設のコンセプトをもとに設計士を始め関係者との十分な検討が必要になります。
また、職員の制服やパンフレット 人間ドックの場合の食事もここで検討しておきましょう。
2.医療機器
医療機器については、検査を実施する上で必要不可欠なものですので、健診センターとして実施する健診コースの検査項目、オプション検査項目を実施できるものを揃える必要があります。
ここで重要なのは、できるだけコストを抑えることです。
特に脳ドックや肺がん検査(CT)などを実施するかどうかですが、新たに健診専門でMRIやCTの導入を検討する場合は、これらの機器が主にオプション検査で使用するものであり、健診コースに組み込むとしても採算性は低いため、高級ドックでどうしても必要な場合は別ですが、慎重に検討をしてください。
病院が新たに健診センターを持つという場合は、病院にあるこれらの機器をうまく使うようにオペレーションを検討することが望ましいと思います。(例えば、病院と健診センターが離れた場所にある場合は送迎も検討しましょう)
3.健診システムの導入
健診サービスを提供する上で、欠かすことのできないものが健診システムです。
事前書類の出力、当日の受付、医療機器と接続し検査データの自動入力、その他画像診断機器との接続による医師の読影の支援、検査の進捗状況管理、結果出力など、ほぼ全ての健診サービスの提供に関わるためです。
健診サービスは病院、クリニックによって運用方法がまちまちなので、かなりカスタマイズが必要になってきます。数千万円単位の金額になる場合もありますので、どのような健診サービスを提供するのか、オペレーション計画と合わせて検討が必要です。
Ⅶ.収支計画
ここまでで検討した事業計画を数値に落とし込み、事業の採算性を検討します。ここでは、健診センター開設における収支計画のポイントを上げておきます。
(収支計画表のつくり方は、ホームページや本などでわかりやすく解説されているものがありますので、お調べください)
1.収支計画のポイント
収支計画については、健診センター開設後5年くらいの計画をまずは作成しましょう。ここまでで検討した事業計画を前提条件に数値に落とし込み、損益の計画を立てます。
その際の基本的なポイントは以下の通りです。
(1)売上の予測
健診種別毎の予想売上を月別で算出します。
各種健診平均単価 × 受診数/月 =月間売上
①平均単価
健診センターの立地や競合などの多さによっても変わりますが、平均単価は日帰り人間ドックで4万円前後、生活習慣病健診で2万5千円前後、定期検診で8千円前後が多いと思います。
②受診数
受診数は市場環境や競合状況などから予測します。その際、最低人数〜最高人数まで何パターンか検討し、最低人数でも採算が取れるかをよく検討しましょう。
(2)経費の予測
経費についても、さまざまなものがありますが特に注意が必要なものは以下のとおりです。
①人件費
特に常勤医師・非常勤医師の採用人数を慎重に検討しましょう。人件費に占める医師の割合が高いため、採用人数によっては、利益を圧迫する原因となります。
②医療機器・健診システム
健診センターにおいては、高額な医療機器や健診システムはリースする場合が多いとおもいます。これらの費用も利益を左右する要因となりますので、特にCTやMRIなど高額機器の導入については慎重に検討してください。
以上ポイントのみ上げましたが、詳しくは契約されている税理士事務所や会計事務所などと十分ご相談いただき、無理のない収支計画を作成してください。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
ここでは、開設する健診センターで違いもありますので、事業計画策定にあたって検討する事項は他にもあるのですが、まずは要点のみを書き記しました。
要点を押さえた上で、みなさまの病医院の実情に合わせた事業計画が必要となりますが、参考にしていただければ幸いです。