健診センター開業手順 実務編
ここでは、開業の基本的なフローの中の「実務」のポイントについて解説してまいります。
<健診センター開設の基本的フロー>
ここでは、開業の基本的なフローの中の「実務」のポイントについて解説してまいります。
健診センター開設までの実務を説明しますが、実務の実行前に、最も重要なことは、事業計画をしっかりと策定することです。ある程度実務については柔軟な対応を要する場面が発生しますが、事業戦略がしっかりしていないと、実務にかなりのブレが生じ、良い施設をつくることができなくなりますので、ご注意ください。(詳しくはコラムの健診センター開業手順 計画編をご覧ください)
Ⅰ.立地の選定
1.健診センター設立の立地
健診センターの立地は、設立する健診センターのコンセプトや目的に合った場所を選定することが重要です。
(1)新規設立の場合の立地選定
新規設立の場合、現状の施設との相乗効果を期待する(市場浸透策)のか、新規の顧客獲得および現施設への患者取り込みを期待する(市場拡大策)のかで、設立する立地が変わります。ほかにも設立する施設のコンセプトに合わせて住宅地がいいのか都市部がいいのか郊外がいいのかなどを検討します。
(2)リニューアルの場合の注意点
立地選定をいちから始める場合は、立地選定から契約までの期間を、少なくとも半年は見込むようにしましょう。
テナントビルで開設し、CTやMRIを導入する予定がある場合は、重量が重い機器が搬入・設置できる構造か確認しましょう。また電気容量についてもCTやMRIは消費電力が大きいため、十分な電源が確保されているか確認しましょう。
事前の確認が十分でなかったせいで、ビルの補強や電源の新たな設置などが必要になり、余計なコストがかかった例がありますので、設計士や施工業者に必ず相談してください。
Ⅱ.設計・工事・設備関連
1.設計・施工業者の選定及び進め方に関する注意点
(1)設計・施工業者選定の注意点
健診センター設立の予算に占める割合が高い設計・施工については、業者は複数の業者から選定することがほとんどだと思います。まず、設計士(設計事務所)を選定し、ある程度の基本設計ができた段階で施工業者を選定するという流れになることが多いです。
健診センターの設計・施工の経験がある設計事務所・施工業者を選定することが望ましいですが、健診専門の業者は無いと思いますので、診療所や病院の設計・施工の実績がある業者から選定するのがいいでしょう。
(2)設計関係の打ち合わせの注意点
業者選定後の打ち合わせについては、開設の実務責任者が医師、看護師、検査技師、放射線技師、事務職員など、スタッフの要望・提案を設計士や施工業者と十分打ち合わせをしましょう。
一部の経営陣だけで、設計図面などを決めていくと、実際に働くスタッフの使い勝手などが悪くなったりしますので、十分現場の意見を聞き取ることが重要です。
もちろんすべての要望や提案を受け入れることは不可能ですので、その意見の中から、妥当なもの、予算にあったアイデアを採用し、良い施設をつくることが必要です。
2.設計に関する検討事項
(1)コンセプトに合わせたレイアウトの設定
戸建て(健診施設自体を建設する場合)あるいはテナントビル入居のいずれにしても、健診センターの内外装やレイアウト(間取り)が開設後の健診センター運用の良し悪しを左右しますので、しっかりと検討することが必要です。
内外装デザインやレイアウトのたたき案は設計士が作成してくれますが、スタッフが健診のプロとしての目線で内外装やレイアウトを検討し、最終的な図面へ落とし込むようにしましょう。
①施設レイアウトのポイント
レイアウトは、想定する受診人数、提供する健診サービスに合わせて、効率的な運用ができるように設定する必要があります。
<検討のポイント>
◆動線の検討
スタッフの動線および受診者の動線を検討します。フロアのレイアウトは設立する健診センターの規模やビルの形状、使用する階数で変わりますが、健診コースや一日あたりの想定受診人数を念頭に、受付や待合、検査室の配置・回遊性を検討します。
複数階を使用する場合、エレベータの台数や大きさ、階段の広さなども動線に影響しますので気をつけましょう。
◆受付スペース・事務スペース
受付スペースは、受付と精算などの作業が効率的に出来るように検討します。受付スペースや事務所スペースは全体の床面積の制限上、小さくしがちですが、受付スペースが狭すぎると最初の受付で受診者が停滞し、受診枠減少の原因となりますので、適切なスペース確保が必要です。
◆待合・更衣スペースの検討
待合は大きさや検査室との位置を動線に考慮して検討します。更衣室は想定受診人数および回転率の想定によってロッカー数やスペースの大きさを検討します。
◆各検査室の配置と注意点
各検査室の配置を決めるには、設置する医療機器をこの時点である程度決めておく必要があります。
医療機器等により施設全体のどこに配置するかを検討します。
特にテナントビルの場合、MRIやCTなどは耐荷重の関係で配置できる場所に限りがあり、場合によっては補強工事が必要になる場合もあります。また胃カメラや婦人科室など排水設備が必要になる部屋の配置も要注意です。
◆防音性・プライバシーへの配慮
特に問診や診察室、保健指導室などは外部に声が聞こえないような工夫が必要です。
婦人科検査室など女性用の検査室については、最近はフロアを分けるなど女性専用のスペースを確保している施設もありますが、床面積の制限上、分けることができない場合でも配置の工夫が必要です。
②設備に関するポイント
設備については、基本的に設計士や施工業者に、必要な設備や配置方法を検討し、提案してもらうことになります。
ただし、事前に運用面での計画を業者に説明し、理解を得ておく必要があります。例えば、大きな施設や複数階になる施設では、インカムなどを使用することも想定し、電波がしっかりと届くための設備およびその配置を提案してもらうなどです。
<主な設備>
空調、照明、医療用・その他電気コンセントの数・設置場所、電気容量(特にCTやMRIを導入する場合、要注意)、LAN配線、インターネット環境(Wi-Fiなど)、電話回線、ナースコール、消防設備、警、備システム、放送設備、テレビ(モニター)設置 など
Ⅲ.医療機器の選定
医療機器については実施する健診内容で導入する機器が変わります。健診センターの事業計画に合った適切な医療機器の導入を検討しましょう。 医療機器の導入については、医療機器卸会社に一括で導入を依頼する場合や医療機器毎に個別に見積もりを取り、選定・導入する場合など導入方法はいろいろありますが、それぞれにメリット・デメリットがあるので、導入方法についてもよく検討してください。
(1)健診内容(コース)ごとに必要となる医療機器
①一般健診で必要となる医療機器
定期健康診断、雇い入れ時の健康診断、特定健康審査(心電計、胸部X線装置は不要)ではこれらの機器が必要になります。
身長・体重計、血圧計、視力計、聴力計、心電計、 胸部X線装置、(血液分析装置)、尿分析装置
※検体検査業者の選定
自施設に血液分析装置がない場合は、検体検査業者を選定する必要があります。自施設からの距離(検査時間)や価格など検討し、選定します。
②人間ドック、生活習慣病健診で必要となる医療機器
一般健診で必要とする機器以外に下記のような医療機器が必要となります。
胃部X線装置
人間ドックや生活習慣病健診を実施する場合、胃の検査が必須の項目になるため必要です。胃カメラとの選択制で実施する施設が多いです。
胃カメラ(上部消化管内視鏡)
通常胃X線検査か胃カメラを受診者が選択するケースが多いです。
胃カメラの場合、胃透視より数千円高く設定し、差額をいただくケースが多いです。
私の経験としては、胃カメラを選択する受診者が増えてきており、胃カメラのキャパシティが受診枠を決める要因となっている健診センターも多いと思います。人間ドックや生活習慣病健診をメインの健診として実施する場合は、胃カメラを何台導入するか、そして胃カメラを実施できる医師、看護師を何名揃えられるかで、大きく売り上げに影響すると言えます。
病院併設型では病院に消化器内科や内視鏡センターがある病院は併用することがあります。この場合は病院の診療との兼ね合いで予約を取れるよう調整が必要となります。また病院と健診センターが離れた場所にある場合は送迎などを検討する必要もあります。
超音波検査装置(腹部)
人間ドックや協会けんぽ生活習慣病健診(付加健診)を実施する場合には、検査項目に腹部の超音波検査が指定されており、必須となる機器です。健診施設が想定する受診人数によって導入台数は変わりますが最低1台は必要になるでしょう。
また、市民健診やオプション検査での乳がん健診を実施する場合には、別に機材を用意するか、必要な部品を別に揃えるのかも検討が必要になります。
その他人間ドックに必要な医療機器
眼底
眼圧測定器
③その他導入を検討する機器
その他導入を検討する医療機器はいろいろとありますが、ここでは基本的なものとして、下記の医療機器の注意点を上げておきます。
マンモグラフィ
人間ドックのオプション検査や住民健診での乳がん健診で必要となる機器です。年令によって超音波検査との選択性になったりする場合もあります。
乳がん健診を実施する場合には導入を検討する必要があります。高価な機器ですので、採算性を十分検討しましょう。
CT
CTは肺がん検査や内脂肪測定検査などで利用されます。ただし人間ドックや生活習慣病に必須の検査ではありません。
肺がん検査については住民健診のがん健診や人間ドックのオプションで補助が出るケースがありますが、うまく需要を喚起しないとあまり利用数は伸びないため、健診専門で導入する場合は慎重に検討したほうがいいでしょう。
MRI
MRIは脳ドックや人間ドックのオプションでの脳検査で利用されます。ただし人間ドックや生活習慣病に必須の検査ではありません。
脳ドックや脳検査に補助を出す保険者もありますので、もともと導入している病医院であれば、臨床での使用の時間と調整してオプション検査を実施することで、売上向上の対策になる場合もあります。
健診専門で新規に導入する場合は、導入するための費用や工事など物理的な負担も大きくなるので、慎重に検討してください。
(2)健診システムとの接続
健診結果表の作成の効率化や正確性のために、検査機器のほとんどは健診システムと接続します。どの医療機器と接続するかは、健診センターの方針によると思いますが、医療機器ベンダーと健診システムのベンダーとの調整を双方でしてもらうため、健診センターの事業計画を理解してもらい良い提案をしてもらうようにしましょう。
また画像診断系の機器(一般撮影、胃透視、CT、MRI、超音波検査機器)などについては、画像診断のシステムとの接続および健診システムとの連携もありますので、注意してください。
Ⅳ.健診システムの選定
(1)健診システムの重要性
健診システムは受付・精算から検査オーダーや医療機器との連携、結果報告書の出力など健診業務の多くを支えるものです。
この健診システムの良し悪しで、開業後の運用効率が変わると言っても過言ではありません。そのため、健診システム及びそのベンダーの選定は十分検討をしてください。
①自施設の規模に合った健診システムを選びましょう
健診システムは、受診人数や実施する健診コースなどにより、機能や仕様が違うため、各種ベンダーの出している健診システムの中から自施設に合うものを選ぶ必要があります。
②健診システムのカスタマイズの必要性について
健診システムは基本的にパッケージになっているものがそのまま使用できるということはなく、自施設の運用方針などによりカスタマイズが必要となります。このカスタマイズがどこまでスタッフの意向を反映しているか(要は使い勝手ですが)で運用効率が全く違うので、十分な打ち合わせと作り込みが必要です。
③費用面での注意点
初めて健診センターを設立する場合、カスタマイズの内容にもよりますが、かなりの費用となります(PCも含めると数百万円から数千万円くらい)ので、驚かれますが、ここで予算を削るため、必要な機能を落としたりすると、後でかなり運用に支障が出る場合がありますので、十分検討をしてください。
(2)電子カルテとの連携
病院が健診センターを併設する場合、再検査や治療で病院本体の利用を促す工夫が必要です。健診から治療へシームレスに運用する場合、病院で使用している電子カルテと健診システムを連動させる必要があります。この接続に関する費用も想定以上にかかる場合があるので気をつけてください。また、病院と健診センターが離れた場所にある場合は、クラウドなどの利用を検討することになりますが、セキュリティ面などにも配慮し、十分な検討が必要となりますので、できるだけ早めに、電子カルテのベンダーと健診システムのベンダーの担当者との意見交換、調整をしてください。
V.什器・備品類の選定
健診センターに必要となる什器備品は非常にたくさんあり、細々としたものも多くなります。漏れの無いよう必要なものをリスト化し、各業者との交渉をすすめて行きましょう。 納入時期についても、開業前に集中しがちですので、納入時期の調整をしっかりとしてください。
<主な什器備品>
パソコン・プリンタ関係(事務用・健診システム用)、院内用携帯(スマートフォン等)、椅子、机、待合室用ソファ、マガジンラック、ロッカー、傘立て、医療用カーテン、診察台、婦人科用診察台、キャビネット(収納什器)、医療用カート、救急セット、受付発券機・精算機、医療用備品、各種車椅子・ストレッチャー、ウォーターサーバー、制服(受付用、事務職員用、医師用、看護師他医療職用)、スリッパ など
Ⅵ.プロモーション活動
ここでは、マーケティング活動のうち、特に実務作業の多い受診者の獲得のためのプロモーション活動のポイントを説明します。
プロモーション活動については、健診センターのコンセプト、健診コースや価格など、マーケティング戦略に基づいて実施されるものなので、戦略の一貫性が重要です。
1.主なプロモーション活動とそのポイント
(1)ホームページの制作・管理
ホームページは広告・広報、営業ツール、人材採用ツールなど様々な役割を担うものです。
特に、人間ドックなどの場合は、個人がホームページを確認し、健診センターを選ぶ確率が高いので、自施設の強み、特徴が伝わるホームページ作りが重要になります。
また、予約を直接ホームページから取れる仕組みを導入している施設も増えていますので、これから制作するのであれば、予約の仕組みを導入することも検討しましょう。
(2)マス広告
いわゆるテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の広告です。
広告が規制されている医療機関の場合は、広告可能な内容が限られているので、費用対効果を十分検討する必要があると思います。
新聞の折り込み広告などは、施設のオープン案内として使うことは検討しても良いかと思います。
人材の採用が必要な場合は、インターネットや求人誌に募集をすることがありますが、人材採用募集の広告も認知度の向上にもつながるように工夫して掲載すると良いでしょう。
(3)ポスティング用チラシ
人間ドックや市民検診を実施する場合、周辺の潜在受診者(周辺住民の方ですね)へ施設の存在を知ってもらうために、チラシをポスティングします。
オープン半年くらい前から何度か配布するのが効果的と思いますが、予算に合わせて検討してみてください。
(4)パンフレット・オプション一覧表
ある程度のページ数のあるパンフレットは、施設の特徴を知ってもらうためのツールとして必要です。
特に渉外(営業)担当者が企業や保険者(健康保険組合等)の担当者との契約交渉、打ち合わせなどに使うツールとして有効です。
最近では、パンフレットのコンテンツをデジタルで作成し、PDFでダウンロードしてもらえるようにしている施設も増えていますので、検討しましょう。
(5)割引券(オプション検査など)
開業当初は、潜在受診者へ配布することで、受診を後押しする効果が期待できます。
また、健診の閑散期などにキャンペーンとしても使用し、繁忙期からの受診者の誘導に使用することもできます。(ただし効果は限定的なものです)
(6)駅・屋外広告看板
開業予定の立地に、建設前から告知する看板を出すことで周辺住民や通勤の方への認知度向上につなげます。
いわゆる町中の看板、駅やバス停などの交通広告も一定の認知度向上の効果は期待できます。
余裕があれば最寄り駅から施設まで何箇所か誘導看板があると、初めて来る受診者の安心感にもつながるので設置を検討しましょう。
(7)プレスリリース
開業・リニューアル前に、新聞社や雑誌社や地域の情報誌の会社などに開業情報をプレスリリースします。採用されれば無料で広報してもらえるので、「だめもと」で出してみましょう。インターネットでプレスリリースを実施するサイトなどもありますので検討してください。
(8)内覧会
周辺住民や企業や健康保険組合などの担当者、協力業者の方々を招いて、施設を見学してもらう内覧会もコミュニケーション手段の一つです。内覧会に合わせて、記念講演会やパーティなどをすることもありますので、自施設の特徴などを知ってもらえる機会となります。どのような内容でやるのか検討してください。
(9)営業・渉外活動(人的コミュニケーション)
企業健診をメインとする場合、企業の健康診断担当者に開業前から接触し、開業後は自施設での受診をしてもらうように促していきます。都市部などの競合が多い場合は、1年前くらいから渉外を開始し、自施設への変更が可能か見極めていく必要があります。
企業健診は企業担当者との人間関係を築くことが重要となります。特に都市部では競合施設も多く、こまめに訪問し、情報交換などをしていないと、知らない間に別の施設に変更されるということはよくありますので、開業前、開業時だけでなく、こまめに訪問できるよう営業担当職員を任用するなど手配が必要です。
また、人間ドックでは、健康保険組合と契約が必要になる場合がほとんどです。人間ドックの補助がおりるように、開業前から契約締結の活動をする必要があります。
最近は健診代行機関(健保に代わって健診センターとの契約、健診項目、費用の取り決め、検査結果の報告、精算などの代行)が多くなっており、これら複数の代行機関と契約することが重要となっています。
2.受診者のリピート(再受診)対策の検討
(1)受診前および受診時の対策
受診者に2回目以降も受診してもらうためには、受診者が実際に目にするものや、触れる(接遇含め)ものに好印象を持ってもらうことが必要です。
<主な対策>
・予約時の対応
・受診案内(説明書)などのわかりやすさ ― 事前の作り込みが重要
・施設の清潔感―定期的な清掃・施設のメンテナンスが必要
・スタッフの接遇(特に医師の対応は大事)
・医師の結果説明のわかりやすさ
など
(2)受診後の対策
◆リピート率等統計データの取得
リピート率向上の対策をたてるには、自施設のリピート率に関するデータを取ることが重要です。2回目以降、何回受診しているかなどが把握できるようにしましょう。健診システムでどのような集計ができるか、業者に確認をしましょう。
◆再受診案内
ハガキまたは電子メールなどで次回健診時期の案内を出します。健診システムで管理出来る場合が多いので、その機能を利用し、施設としての手順を決めて実施しましょう。今後はデジタルでの対応が主流になると思いますので、そのような仕様があるかどうかも、健診システムを導入するポイントになると思います。
◆企業担当者向けサービスの充実
企業をメインターゲットとする場合は、健診センター選定の権限のある企業担当者向けに健診結果の経年方向や労基署関係資料作成代行などのサービスの実施を検討しましょう。
◆健診関連情報の提供など、受診者とのコミュニケーション度を高める
2回目以降の再受診者となるターゲットに対する、受診の動機付けとなるような予防医療、早期発見に役立つ情報を提供するようにしましょう。
情報提供方法としては、郵送以外にLINEやメールなどを登録してもらい、デジタルで情報提供をおこなう仕組みを導入することも検討するとよいでしょう。
(3)アンケート調査による受診者満足度の把握
顧客満足度を確認するためアンケートの実施も重要です。メールアドレスやラインアカウント登録してもらうためQRコードなどを掲示し、その時の特典を考えましょう。
Ⅶ.オペレーション活動
オペレーション計画に沿って、具体的な運用に関する実務について検討します。
大変多くの作業がありますので、ここでは主要な実務についてのみ、ポイントを説明します。
(1)人材採用・研修活動
健診事業は人がいないと成り立ちませんので、スタッフの採用と研修活動が重要になります。
人材の採用計画を立てた上で、必要な人材の募集をします。
主要となるメンバー(計画から開業まで携わるスタッフ)以外の採用についても研修期間を考慮した上で、計画的に募集しましょう。
(2)健診コースの設定
①健診コースの設定
多くの健診センターでは、人間ドック・生活習慣病健診・一般健診(企業健診)・住民健診などターゲットを広くとり、様々なコースを設定しています。
また、人間ドック専門の場合は、コース毎に特徴をもたせた検査項目を設定し、何種類かのコースを設定することが多いです。
このように健診センターのコンセプトや想定する受診者のニーズなど健診事業の計画に合わせた健診コースの設定をします。
②検査項目の設定
◆一般健康診断等
事業所等が行う労働者を対象とする一般健康診断(定期健康診断等)や特殊健康診断は法定健康診断のため、労働安全衛生法で検査項目が決まっています。
◆生活習慣病健診
協会けんぽの生活習慣病健診は協会けんぽの指定項目があります。
施設独自での生活習慣病健診についても一般健診に胃の検査や超音波検査を追加しコース設定している施設が多いと思います。
◆人間ドック等
基本的には人間ドック学会の基準項目・判定区分に準じた設定になる場合が多いです。
施設オリジナルのコースを設定する場合は、学会の基本項目に施設として何を追加するかどうかを検討するのがよいでしょう。
③オプション検査の設定
主に人間ドックにおける任意で選択する検査を設定します。
多くの健診センターで実施されているオプション検査がありますので、自施設の特徴を活かし、競合と差別化できる検査を検討してください。
個人的にはオプション検査はある程度、種類を絞ったほうがいいのではないかと考えています。というのもあまり選択肢が多くても選びにくくなるという受診者視点と管理しにくい割には売上向上に貢献しないことがあるからです。
また受診者が選びやすいように、セット化するなどの工夫も必要です。
④価格設定
価格設定は自由診療なので自由なのですが、おおよその相場的価格はあります。競合施設の状況や健診コースの項目などを検討し価格の算定をします。協会けんぽの生活習慣病健診の場合は協会けんぽの上限価格がありますので上限近くの価格に設定することが多いと思います。
⑤人間ドック後の食事の提供
人間ドック終了後に食事を提供する施設が多いです。
テナントビルなどに入る場合は、同ビル内の飲食店や近隣飲食店と提携の交渉をしましょう。病院などは院内の食堂を利用するかどうかを検討しましょう。 飲食店などが近くに無い場合は、宅配を利用するなど検討してください。
(3)健診業務オペレーション検討
健診業務のフローを検討し、どのように健診を運用していくかを検討します。<健診センターの床面積の大きさ>、<実施する健診コース>、<使用する医療機器>、<健診システム>などと密接に関連しますので、運用方法を検討する前にある程度の事業計画を策定する必要があります。
また設計図面の作成とも連動しますので、健診業務のオペレーションをシミュレーションしながら、計画にフィードバックし、より良い計画にしていく必要がありますので、この作業は非常に重要になります。
「基本的な健診業務フロー」
①予約→ ②事前準備 → ③受付 → ④検査・結果説明 → ⑤会計 → ⑥結果処理・送付 → ⑦請求業務
①予約に関する業務
◆営業時間の設定および受診枠の設定 受付時間の設定
営業時間と受診枠の設定には関連性があります、たとえば人間ドックを実施する場合は開始時間によって受診枠に影響があります。
実施する健診および想定受診人数を検討し受診枠・受付時間を設定します。
◆予約業務・手法の検討
受診枠に合わせて、電話での予約の手順を検討します。
あわせて、インターネットでの予約を実施するか、外部の予約サイトを利用するかも検討します。
電話予約とインターネットでの予約が重複しないように受診枠の設定をする必要がありますので、導入する健診システムの会社などとも相談し、予約の仕組みを検討しましょう。
②事前業務の検討
予約後の受診案内等の送付や健診システムへの登録方法などを検討します。予約登録等は健診システムの仕様によりますので、導入する健診システムをよく検討し、導入決定後に健診システムを自施設の予約の仕組みに合わせてカスタマイズしていきます。
事前に受診者に送付する、受診案内、問診票、検査キット(尿検査・便潜血検査の容器など)についてもどのようにセットするかを検討します。
受診案内の説明に関してはベースとなるものが健診システムでも用意されているとおもいますが、自施設の事業に合わせてカスタマイズが必要でしょう。
健診システムから出力するか、別で印刷したものにするかなども検討します。
③受付に関する業務の検討
◆受付・更衣室・待合の配置検討
受付・待合・更衣室の場所や待合の広さ、椅子の数、更衣室のロッカーの数・カギの仕組みなどを検討します。また、コンピュータやプリンタ、レジなどの配置や各種書類の収納方法でも受診者対応の効率が変わりますので、設計士などと十分相談してください。
受付そのものの手順については、施設の大きさや実施する健診の種類の多さで様々ですが、開業当初にまず基本的な手順だけきめておきましょう。
開業後に手順を適宜みなおして、より効率的な手順を検討していきましょう。
受付での説明事項や確認事項などをマニュアル化し、開業までに研修をすすめて行けるようにしておきましょう。
④各種検査・結果説明
◆検査業務のオペレーションを検討します
より多くの受診者に対応できる仕組みを考えていきましょう。
健診システムで進捗管理ができるものもありますので、導入および運用手法を検討しましょう。
検査の流れ(例)
問診→血圧測定→身長体重→採血→心電図→エコー→胃透視→内科診察
(受診状況に応じて順番を変える)
特に人間ドックでは胃の検査や腹部超音波検査、内科診察などボトルネックになる検査がありますので、どのような流れで健診をすすめるといいか、また必要な機器の台数や人数等も合わせて検討しましょう。
◆人間ドックの結果説明
人間ドックでは、当日の検査後に医師から検査結果の説明を受診者にする必要があります。結果説明に関しても必要な結果が結果説明までに揃えられるよう、健診システムや画像診断システムを含め仕組みを検討しましょう。
◆インカムの使用
検査フロアが広い、複数階に及ぶなどの場合は、各スタッフの連携のためにインカムの利用を検討します。それぞれの検査室の状況や別の階の状況などをスタッフ間で連絡を取り合うことで、効率的な運用が可能になります。
◆検査工程表設計(健診システムで出力)
受付や検査の手順がきまれば、健診システムで出力する(タブレット端末で表示する場合も最近はあります)検査工程表を健診システム業者と相談して設計します。工程表のみやすさなど設計の良し悪しで、受診効率や検査漏れの確率を左右することもありますので、しっかりと検討しましょう。
また検査工程表をどのような手順で次の検査へと引き継いで行くかなど、作業手順を設定しましょう。
◆設計図面での動線の検討
ある程度の手順が決まった段階で、各スタッフが設計図面上でどのような流れで検査をしていくかを図面上でシミュレーションしてみましょう。
また、大きめのスペース(会議室や駐車場など)があれば、テープやチョークなどで、図面の一部を実寸大で線を引いて見ましょう。
各検査室の大きさや動線を確認すると、図面上ではわからなかった問題点がみつかる場合もありますので、時間的、物理的な余裕があればやってみてください。
◆マニュアルの作成
今後の新規スタッフの研修などのためにも受付や検査業務手順をマニュアル化しておきましょう。文書での保存も必要だとおもいますが、スマホなどで動画撮影しておくと、新入職員が研修でイメージしやすいと思います。
◆精度管理や第三者評価について
全国労働衛生団体連合会や医師会などの精度管理調査は必要ですので、所定の手続をした上で、適切に実施してください。
日本人間ドック学会や日本総合健診医学会などの第三者評価についても取得を検討してください。
施設認定を取るかどうかは別として、施設管理に関する評価基準についてはよくまとめられているので、確認だけはして、施設運営の参考にされると良いと思います。
⑤会計
企業の健診や人間ドックを実施している場合、当日の個人負担分がある場合。精算をします。健診センターの会計は受診者の加入する健康保険組合等によって同じ人間ドックでも個人と健康保険組合が支払う負担額に違いがありますので、健診システムでの運用を中心に会計の手順を検討します。
⑥結果処理・送付
検査結果報告書の作成に関する業務手順を設定していきます。
健診センターにより手順は違いますが、基本的な結果処理のフロー下記のような流れになります。自施設で試行錯誤しながらより効率的かつ正確な手順を確立するようにしましょう。
<結果処理の流れ(例)>
結果入力(自動で数値が入るデータもあり)
↓
医師判定 心電図 画像診断系 婦人科系でそれぞれ読影・判定
↓
判定入力
↓
結果・判定入力チェック
↓
医師総合判定
↓
検査結果出力 チェック
↓
ダブルチェック
↓
結果報告書出力
↓
封入前に住所・名前等の登録内容チェック
↓
結果封入・郵送
重要なポイント
・医師の読影体制、婦人科系の検査や脳検査の判定のための医師の手配。
・検査結果チェックおよび入力の体制
・事務処理の方法
◆デジタルでの結果通知について
スマホやタブレットでの結果が確認出来るシステムを導入する場合は健診システムおよび外部のシステムの業者と打ち合わせし、自施設の仕組みをどうつくるのかを検討する必要があります。
◆結果処理・送付業務の外注化について
事前書類の送付や結果処理・送付業務については、外注で請け負う業者もあります。ただし、採算面では数万通のレベルでの発送業務でないと合わないので、数万人規模での健診を計画している場合は検討してもいいかと思います。
⑦請求業務
企業や健康保険組合、代行機関などへの請求業務が発生します。
人間ドックの場合、当日受診者から個人負担分の費用を精算し、健保負担分(補助額)を指定された日時までに請求書を健康保険組合等へ送付することになります。
一人の人間ドックで請求先が2つ以上になる場合が多いため、一般的な商品と比較して、請求業務が複雑になり、受付や経理業務において作業時間が増える要因にもなります。
これらの業務を効率化するために、健診システムにおいて、どのくらいの請求業務が可能であるか事前に確認しましょう。健診システムの選定においては、検査業務の効率化が優先される傾向にありますが、事務作業の効率化が図れるシステムを選ぶことも非常に重要です。
また、健診システムと会計システムの連携が可能かどうかも検討することをおすすめします。
請求業務では、各種健診における請求の手順を整理し、確実に請求業務が行える仕組みを検討しましょう。請求金額の間違いや請求漏れがないかのチェックなど業務が複雑になりがちですので、気をつけましょう。
◆請求書の作成方法
健診システムがあれば健診システムから出力することになります。事前の健診システムへの支払い条件などの設定作業に時間がかかりますので、システム導入時期も気をつけてください。
特にリニューアルで、健診システムのメーカーを変更した場合などは、データの移行などが必要です。
◆受診券などの管理
代行機関や健康保険組合などから発行される受診券などは請求時に請求書と合わせて送付する必要があります。保管方法等の手順を決めておきましょう、
◆保険者用検査結果データ
請求時に検査結果を同時に送る必要がある場合は、紙媒体や磁気データ媒体などを作成します。健診システムで作成することがほぼ出来ますので、手順を確認しておきましょう。
特定健診を実施する場合はXMLデータでの提出が必要になります。
◆住民健診の請求処理
各市町村などの実施する住民健診などは、独自の紙媒体での請求書や結果表が必要となる場合があり、業務的には負担が大きくなる場合がありますので、どのような手順が必要か、実施する場合は事前に確認し、契約するかどうかも含め検討したほうがいいでしょう。
Ⅷ.各種手続き
(1)主な届出
基本的には以下の届けが必要です。
◆保健所への届出・相談
開業届けは開業後10日以内に申請することになりますが、保健所には計画段階から何度か相談に行く必要があります。
図面の確認や健診センター名の確認など早めに相談しましょう。
◆医師会への入会
必要な場合は入会をしましょう。開業前に入会をしておくと、開業手続き等いろいろと相談に乗ってもらえます。
◆学会等の入会
日本人間ドック学会や日本総合健診医学会など関連する団体への加入をするかも検討しましょう。人間ドックを実施する場合は、健康保険組合連合会の指定施設になることが補助条件となる健康保険組合もあるので、指定をとるためにはこれらの学会に加入したほうがいいです。
◆その他の手続き等
2施設目以降の新規設立の場合、就業規則の変更や定款変更など必要になる場合がありますので、司法書士や社会保険労務士など関係する専門家に事前に相談しましょう。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
ここでは、健診センター開設に関する実務のうち、基本的に押さえる必要があることに絞って書き記しています。
健診センター(部門)の開設については実務作業の量が多く、ここでは記載できていない事柄もまだまだありますので、機会があれば、別のコラムで述べさせていただきたいと思います。
みなさまの病医院での健診センター開業の実務作業の参考になれば幸いです。